とある元医者の戯れ言
昔から、俺は3つの事が得意だった。
1つは、勉強すること。
1つは、笑顔を作ること。
1つは、嘘をつくこと。
営業スマイルとは良く言ったもので、いつもいつも笑っていた。
患者が喜んでくれた時、上司に会う時、知り合いが死んだ時でさえも。
そうやって笑っていたら、いつしか“本当の笑顔”というものを忘れてしまった。
ギア「…ねーねー…シンクー」
シンク「…んー?何ー?」
ギア「…あのさぁ……前から気になってたんだけどさ、その顔の仮面と包帯って何でつけてるの?」
シンク「…えー?これ?これを着けてないとなんかしっくり来ないでしょwww?」
ギア「えwwそうだけどそうじゃなくてwwww.......うーんなんていうか...シンクがそれ取ってるとこ見たことないしwww」
シンク「そりゃ俺のトップシークレットだからねぇwwwしかもほら....他のメンバーに聞かなかった?..俺、能力が強すぎるからこれ着けてないと勝手に作り替えられちゃうってw」
ギア「んー.....それは聞いたけどさぁ......やっぱり気になるじゃん!見せてよ!!」
シンク「えwだから無理だってwww」
ギア「いいじゃんw見せてよっwww(バッ)」
そう言うとギアは、シンクの顔めがけて飛びついてきた。
シンク「うおっww危ないってww」
ギア「にゃははwwwそう思うなら早く見せてよーー!!」
シンク「だから無理だってww」
必死に抵抗するシンクに対し、お構い無しに顔から仮面を剥がそうとするギア。
ギア「......むぅ.....全然取れない.....」
シンク「アハハww頑張れwww」
もっと必死に逃げるのかと思いきや、あくまでも笑顔を絶やさないシンク。
そろそろ諦めるのかとシンクが思った瞬間、ギアが口を開いた。
ギア「.....じゃあ、なんでその仮面。片方しかないの?」
シンク「え?」
唐突なギアの質問に思わず間の抜けた声を出してしまう。
ギア「だから、これ。なんで片方だけなの?普通顔全体が隠れるもんじゃないの?」
シンク「ああ....wそうだよ...本当は半分じゃなかったんだ。」
ギア「じゃあなんで今は片方しかないの?」
シンク「それはねぇ.......あ、でも....」
ギア「........何?」
シンク「...この話はハルにもしたことないからなぁ.......w」
ギア「...別にいいじゃんw結構口硬いよwwこう見えてもw」
シンク「そう?.....うーん..じゃあ....ちょっと待っててw」
そう言い残すとシンクは部屋を出て、何処かへ向かった。
ギア「..!?ちょっ......どこ行くの!?まさか逃げるつもり?!」
シンク「ちょっと物を取りに行くだけだってw」
ギア「えっ....待っ.....」
ギアの声は惜しくも届かず、シンクはいなくなってしまった。
ギア「........シンクのやつ~~~.....」
仕方がなく、ギアはシンクが帰ってくるまでここで待つことにした。
数分後
ギア「遅いなぁ.....やっぱり逃げたんじゃ.....」
シンク「逃げてないよww」
ギア「ってうわあぁぁっっ???!!!!!」
シンク「そんなに驚かなくてもいいじゃんww」
ふとギアの真後ろから、聞き慣れた声が。
いつの間に立っていたのか……ギアはあまり考えないことにした。
ギア「…何処に行ってたのさ」
シンク「…え?だから“ある物”を取りに行ってたんだよw」
ギア「……“ある物”って?」
シンク「……ギアには特別に見せてあげるよ………コレを。」
そう言って取り出したのは、シンクがいつも着けている黒い仮面のもう反面にあるはずの、白い仮面だった。しかしその白い方は黒い方とは対照的に、涙を流していた。
ギア「……なに……これ…?」
シンク「…だからコレが俺が着けているやつの“もう片方”。」
ギア「……へえ……何で着けてなかったの?」
シンク「……俺がここに来る前は、この仮面は全面あったんだ。」
ギア「……うんうん。」
シンク「…でもこの仮面の上にたまたま荷物が落ちちゃってさ、この通り。真っ二つになっちゃった……ってワケwwね?面白くないでしょww?」
ギア「……ふーん……なぁんだ……それだけか←」
シンク「…ちょw聞いといてそのリアクション?!」
淡々と会話を進めるギアに、シンクはツッコミを入れるがその声すら無視し、またもやシンクに問いかける。
ギア「…あ、じゃあなんでシンクの髪の毛は銀色なの?」
シンク「…無視?!…………で…えーと…?髪の毛?」
ギア「うん。……まさか若白髪w?」
シンク「…それは違うw…えっとコレはねぇ……俺ハーフだからw←」
ギア「…え?!嘘だっ!」
シンク「…なんかさっきから酷くねww?ホントホントw母親がイギリス人なんだよw」
ギア「……へぇー………(じぃーー…)」
シンク「…なにその疑いの目はw」
いかにも疑っているという表情を浮かべ、じろじろとシンクのことを見つめた。
ギア「……だってなんか怪しいしww」
シンク「…なんか怪しいって何さwww」
ギア「…いや、だって……良く考えてみたらさぁ…シンクって自分の事全然話さないからさ…シンクって謎が多すぎw」
シンク「…まあ、ここにいるやつらは今まで何をしてたか分からないような人間ばかりだろ?俺だってギアの事について何も知らないんだよ?w」
ギア「……そう…だね……確かにそうかも………」
シンク「…でしょ?だから俺についての話はここまでwじゃあ、俺そろそろ行かないと暁に怒られちゃうからさwじゃ!」
最後にそれだけを告げると、そそくさと逃げるように去っていった。
ギア「……あーあ…行っちゃった………」
ソファーに寝そべり、誰も居ない部屋で一人呟くギア。
ギア「…………さーて…アマトに悪戯でもするかぁ…ww」
ソファーから起き上がり、ドアへと向かった。
***
シンク「…嫌な事を思い出しちゃったなぁ…ww」
暁「仕事のことですか?かといって休ませたりはしませんが。」
シンク「…鬼だわこの子!!」
暁「止めてくださいよ、気持ち悪い……」
シンク「…………酷い……違うよwまあそれもそうだけどww」
暁「じゃあ何ですか?」
シンク「…えー?昔の話だよw俺達がここに来る前の話w」
暁「……余計な事喋ってませんよね。」
シンク「…当たり前じゃんww俺こう見えても口は堅いんだよ?」
暁「…どうですかね………」
暁は適当に反応を帰すシンクに、呆れたようにそっぽを向いた。
(余計なこと、か……)
忘れもしない、痛いほど目に焼きついている光景。
仮面が半分しかない理由。
目には見えないけれど、自分の体をゆっくりと、ただ確かに蝕んでいく赤い瞳。
何もかも、誰にも話せない俺の秘密。
(いつか話せる日が来るのかな……なんて…)
暁「…――であって……って聞いてます?先生!」
シンク「え?ああwwごめんごめんww聞いてなかったwww」
暁「ハアァ…またどうでもいい考え事ですか?いい加減仕事のことについて考え事をしてください。」
シンク「え?!なんでどうでもいいって決め付けんのさ!!」
暁「え?違ったんですか?(キョトン)」
シンク「……そんなキョトンとした顔で言わないで!!俺泣くよ?!(泣)」
暁「うわwキッモwww」
シンク「何この子怖い!!!!」
そんな会話をいつものように繰り広げていると、さっきまで悩んでいたことが急に馬鹿らしく思えてきた。
(あーあ……こうやって俺はまた〝いつも通り〟に一日を過ごしてしまうんだな……)
シンク「………俺の未来はもう決まってるのになw」
暁「……何か言いましたか?」
シンク「……いんや…別にw」
(まあ俺をそういう人間にしたのも俺なんだけどw)
心中でそんなことを考えつつ、なおも笑顔で演じ続けるシンクは、あの日の思い出を忘れることなくのらりくらりと今日を過ごしている。
―――……そんなシンクは、微かに自分の体の『異変』に気づき始めつつあったが。